実存主義パート2

面白い小説(文学)やドラマ(映画やテレビ含む)は、なぜ面白いのか?

その秘密を知れば、我々のコミュニケーションにも活かせるはず(たぶん)。
仏教経典を読解するのにも役立つはず(たぶん)。

それが出発点で、実存主義の世界に入り込んでいます。

今回は例として、宮崎駿の最大のヒット作「千と千尋の神隠し」(以下:「神隠し」)が、なぜ面白いのか?
勝手に考察してみます。

「神隠し」のテーマを、ひとことで言うと「人間とは何か」です。
実存主義そのものですね。
「神隠し」では、この「何か?」に対する答えを「人間とは個性である」と言っているのですね(言ってないけど:@内田樹 風)。

ドラマの中で「個性」を象徴しているのが「名前」と「実印」です。


それではストリーをふり返ってみましょう。

神の国に迷いこんだ「千尋」。
勝手に神さま用の料理を貪り食った両親が豚に変身させられ、ひとり逃げ惑うところを「ハク」に助けられる。
「ハク」から「仕事をしないとこの世界では生きていけない」と教えら、風呂屋(油屋)就職を決意。
「ハク」からアドバイス。
「社長(湯婆)は君に新しい名前を付けるが、君は自分の本当の名前を決して忘れてはいけない」と。
「ハク」は自分の本名を忘れている。

「千尋」、仕事は意外と楽しい。
しかし、ふと気づくと、自分の名前を忘れかけている。
これではいかん、と名前をしっかり思い出す。

「顔なし」登場。
「没個性的人間」を象徴するキャラ。
人恋しくてしかたない。とにかく、みんなと一緒にいたい。
しかし、自分が無いので他人と迎合することでしか、社会と関係できない。
「金」を与えれば人が喜ぶのを知った「顔なし」。ひたすら「金」を出し続ける。
しかし、人の欲望を飲み込み続けた結果、腹がふくれて「モンスター」に変身。
(最近の殺人犯と同じです)

「千尋」の下剤で「顔なし」は正気にもどる。

「ハク」、会社の命令で不正(銭婆の「実印」の窃盗)を働く。
逃走失敗。瀕死の重体。

「千尋」、「ハク」の代わりに詫びを入れに行く。
「銭婆」、「人間(魔女)にとって名前(実印)はとっても大事なものだよ。魔女の実印を盗んだだものは死ぬしかない」と告げる。

「千尋」、「ハク」に実印を吐き出させ、悪事を清算させる。
「ハク」、自分の本名を思い出す。会社(油屋)を去る。

「湯婆」、「千尋」の退社(卒業)試験を行う。
目の前の「豚の群れ」から、自分の両親の成れの果てを見つけ出せ、というのが問題。
「千尋」、「この中に両親はいません」ときっぱり答える。大正解。

千尋一家、神の国から解放される。


いかがでしょうか?

これはもうどう見ても「サラリーマン・ドラマ」ですね。

会社の歯車として生きるうちに「本来の自分を見失う」。
あまつさえ会社のために犯罪にまで手を染める。
そんな哀れな会社人間の姿を「ハク」で描いているのですね。

最後のシーン。千尋は豚の中に両親はいないと言い切ります。
人間はどうしようもなく貪欲で愚かな存在である。
しかし、そうとはいえ決して「豚」ではないのである。
それに気づいた千尋は賢いわけです。
ちなみに、この「豚の群れ」は、ニーチェの「畜群=大衆」という概念をモチーフにしているのではないかと想像しています。

「人間は愚かであり賢い」。
実存主義的視点に他なりません。
この視点があるから面白いのですね。

いかがでしょうか?

コメント

匿名 さんのコメント…
哲学好きです。
精神科医から見た千と千尋の考察も面白いのでわ

こどもの精神分析―クライン派・対象関係論からのアプローチ
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