達人の技

やっぱプロはすげえのである。

先週末、無料セミナーを聴きに行ったときのことだ。
知り合いの若い営業さんが出るとのことで、冷やかし半分で出かけたセミナーである。
営業さんの出来はまあまあ。偏差値だと45ぐらい。
初体験だそうだから、まあ上出来といえる。今後の発展は十分期待できる。
しかしそんな彼のスピーチを聞いたおかげで、プロのすごさが良く分かったのである。

そのプロとは、わが師匠(のお一人)M本さん。
齢60ん歳。データモデル業界では名の知れたお方。
最近は半引退状態で仕事はあまりせず悠々自適にお暮らしである。
趣味はヨーロッパ旅行とワイン。音楽や絵画についてのご造詣も深い(はず。なにせこっちが造詣ないので、確実なことは言えませんが)。
高尚なご趣味。見るからにお坊ちゃん育ち。
これぞ慶応ボーイ!という感じである。


さてM本さんのスピーチ、いったいどこがすごいのか。

まずは話し方である。
話の中に「なんつーか」とか「~つうのは」とか横浜弁が入ったりして、いかにも気軽にお話されている風である。力みもないし、もちろん焦った感じは微塵もない。
この自然さ。名スピーカーのみなさんに共通する要素である。
無理無理感があふれだしてしまう者としては、うらやましい限りである。

次に時間である。
その道のプロ、すなわちこういったセミナーでメインを張るような人は、必ず時間通りにスピーチを終える。1、2分早めに終わることはあっても、1分以上遅れることはまずない。われらがF大佐も、もちろん同じである。

この時間通り終わる、というのは簡単なようで実はなかなか難しい。
というのは開始時間、つまり持ち時間は意外とぶれるからである。
特に下手な司会者の場合、予定時刻の数分前に「はい、どうぞ」と渡されたり、逆に、長い前口上でスピーチ時間に食い込んでくることがある。
時間にすると数分の違いである。数分というのは一見大した時間ではない。
しかし、そうではないのである。
たとえば3分の変動があった場合30分のスピーチなら10%相当の内容を調整せねばならない。
1時間のスピーチでも5%の調整が必要である。
そんなことを自由自在にやる、というのは素人に真似できることではない(やってみれば分かります)。

以上二点だけでもM本さんは十分すごい。

しかし、真のすごさは、ちがうところにある。

それは言葉である。言葉に無駄がないのである。
一語一語、一文一文に意味がある。
テープを起こせばそのまま本になりそうなスピーチ。
これぞ達人の技なのである。

M本氏の場合、気軽にしゃべっていても自然とそうなっちゃう、ということかもしれない。いやたぶんそうであろう。
しかしそれは才能だけで成し得たことではあるまい。
相当な修練を積まれた結果、その境地に達したということだと思う。


翻って営業氏のスピーチ、つまりは平均的な人間のスピーチはどんなか。
言葉が洗練されていない。
そのため、ビシッと決まらない。
その残尿感・物足りなさを解消するため、次々と補足のセンテンスを発したくなる。
ところが実は補足、つまり新情報の付加になっていない。単に言い回しを変えているだけ。
結局、二回も三回も同じようなことをいっているのである。

聞いている方は、非常にかったるい。
お前の残尿感はどうでもいいから、早く次行け!と叫びたくなる。
しかし聴衆がそんな風に感心を持ってくれるのは、ほんのつかの間。
あっという間に睡眠学習へ突入である。

かくいう私も油断していると、つい補足病を発症してしまう。

まだまだ修練が足りません。

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