読書生活2009年8月号

遅くなって、すみません。8月号です。
今月は16冊です。

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<特別紹介>

①倉野憲司 校注「古事記」岩波文庫1963

古事記は、日本最初の歴史書です。

にもかからず、朝廷では古事記を参考書扱い。
正史は、日本書紀(古事記の8年後に誕生)の方です。

どうしてか。
ひとつには、古事記はもともと試作品だった?という可能性があります。
公開してみたら、評判が悪い。それで急遽、全面改訂。
それで出来上がったのが日本書紀ということです。

他の理由としては、天皇の神格化が不十分だったということが考えられます。
古事記の神々(つまり天皇の祖先)はあまりに人間くさい。
神聖な感じが欠けるので、気に入らんということですね。

本当の理由はともかく、参考書待遇の古事記は、長い間、表舞台に出ることはありませんでした。
そのままの状態が続けば、完全に失われていたかもしれません。

ところが、江戸時代に入って、古事記にビッグ・ウェーブが到来します。
本居宣長の研究書出版を契機に、武家社会で大ブレークしたのです。
そして日本書紀を押しのけ、歴史書界で、主役の座を獲得します。

この背後にはおそらく幕府の力(暗躍)も働いたのでしょう。
古事記を広めることで、天皇の神がかり的権威を失墜させ、天皇といえどもしょせん人間だ、という認識を広く定着させようとしたのだと思います。


時は流れ、幕末です。
政権が明治政府に移ります。
明治政府は幕府が二度と復活しないように精神世界の上でも叩き潰しておきたい。
なおかつ自分たちのやることは、なんでもかんでも正当化したい。

そこで明治政府は、後ろ盾の天皇を神様に祭り上げようとしたわけです。

ここに再び日本書紀の出番がやってきました。

そして古事記はまたしてもスポットの当たらぬカーテン裏に。。。
と思われましたが、今度はそうすんなりと事が運びません。

古事記もすっかりメジャーだからです。
突然降板させるのはさすがに無理だったわけですね。

そこで政府は日本書紀と古事記を一本化するという苦肉の策に出ました。
たとえば古事記の言葉を、日本書紀の言葉で置き換えてしまう。
成立順序からみて明らかにおかしいわけですが、そんなことお構いなし。
そうして二つの神話を無理やり一つにまとめ上げていったわけです。

その(情報操作の?)結果、日本書紀的歴史観・民族観は日本中に浸透しました。
天皇は再び神の子孫の座に返り咲き。
それどころか現人神(あらびとがみ)なる超人類に祭り上げられていきます。


また時は流れ、大東亜戦争敗戦。
天皇は再び人間界にご復活。
忙しいことこの上なく、たいへんお気の毒です。

今度は、古事記も日本書紀も主役にもどれませんでした。
両者ともに引き摺り下ろされ、現在に至る。

この先、日本書紀か古事記が主役に返り咲く日はくるのでしょうか。
それはいったいどんな時代なのでしょう。



<おすすめ>
①藤岡和賀夫「懐かしい日本の言葉」宣伝会議2003
 少し前(といってよく考えると20年ぐらい前)によく聞いたことばをたくさん収録。

②ローレンス・J・ピーター「ピーターの法則」ダイヤモンド社2003
 人間は出世するたび、無能レベルに近づいていくという面白い理論です。
 そう考えると、たしかに納得のいくことは多い。

③戸矢 学「カリスマのつくり方」PHP新書2008
 カリスマとは自然に誕生するものではなく、つくりあげるものだそうです。
 これまた納得の一品。

④谷 徹「これが現象学だ」講談社現代新書2002
 フッサール現象学の入門書です。
 現象学とは哲学を一からやり直そう(再構築しよう)というようなものです。
 方法は超越論的還元と形相的還元を駆使し「存在」を徹底的に見つめ直すというもの。
 時間と存在についての考察は、弟子ハイデガーの存在論にも大きな影響を与えたとか。
 哲学解説書にしてはかなり分かりやすい本です。
 巻末の基本用語解説は、予習にも復習にもたいへん役立ちました。
 
 
<まあまあ>
①山本夏彦「何用あって月世界へ」文春文庫2003
 タイトルを見た瞬間、笑いがこみあげました。
 なんなんでしょう、このセリフは。
 この本は、山本夏彦エッセイのエッセンスを抜出してまとめたものです。
 そりゃ、おもしろいはずです。
 
②小林吉弥「究極の人間洞察力」講談社+α文庫1999
 田中角栄のエピソード集です。好意的に書かれています。
 夢もビジョンもあった。優秀だったのは間違いない。
 名総理として歴史に名を残すことができたはずです。  
 ところが権力に執着したばかりに、悪名を刻むことになってしまいました。
 残念なことです。
 
③中野 明「早わかりビジネス理論」PHPビジネス新書2008
 ドラッカーやらポーターやら、まとめて簡単に解説しています。
 これ一冊よめば、ビジネス理論の勉強は十分かもしれません。  

④武村政春「ろくろ首の首はなぜ伸びるのか」新潮新書2005
 空想生物学?の本です。
 生物学の知見を元に、空想上の生き物をあれこれ分析しています。
 鼻行類なんての初めて知りました。

⑤中村 明「悪文」ちくま新書1995
 タイトルをみると「悪文文例集」みたいですが、そうではありません。
 いわゆる文章読本です。  
 中村先生の「比喩表現辞典」(角川)、長らく品切れ状態だったのですが最近ようやく増刷されたようです。アマゾンで残り3冊になっていたので買ってしまいました。
 
⑥池谷裕二「記憶力を強くする」ブルーバックス2001
 脳科学の本です。
 神経細胞とか、脳内物質とか、とてもよく分かりました。

⑦金田一春彦「ホンモノの日本語を話していますか?」角川ONEテーマ21 2006  
 おなじみ金田一先生のエッセイ集です。

⑧角川書店「徒然草」角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシックス2002
 中学生ぐらい向けの徒然草入門書です。
 代表的な段を抜粋して、簡単な現代語に訳しています。
 当然ながら非常にわかりやすいです。

⑨おおばともみつ「世界ビジネスジョーク集」中公新書ラクレ2003
 著者は元政府職員。
 それゆえビジネスジョークだけでなく官僚ジョークも多数収録。
 
⑩ジーン・ゼラズニー「マッキンゼー流プレゼンテーションの技術」東洋経済新聞社2004
 特に、説得のためのプレゼン技術を解説しています。
 「これについては後で」というのは絶対ダメとのこと。
 このブログでも前に書きましたが、私もまったく同感です。
 巻末のプレゼンチェックリストは写し取って持ち歩いています。

⑪齋藤孝「座右のニーチェ」光文社新書2008
 ニーチェというと「畜群」とか「超人思想」といった人間嫌い的な言葉がすぐ思い浮かびますが、意外とやさしいことばも残しているのですな。
 この本は、ツァラトゥストラから抜粋した言葉を紹介したものです。

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