備瀬哲弘「精神科ER」集英社文庫2008
著者は精神科医。この本は、著者が東京都府中病院で勤務していたころの体験談を、20例ほど小説風に紹介したものです。
精神科のドクターというと、会社の産業医の先生のイメージで、のんびりゆったりと仕事をされている感じがしますが、救急搬送される患者の実に10%近くは、精神的にも問題があり、精神科の診断も必要ということで、そもそも人数が少ないということもあるのでしょうが、精神科ERの仕事はかなりの激務のようです。
日本の精神科救急医療システムは、1995年ごろから本格的に整備がはじまったそうですが、自治体ごとに事情や状況が異なるため、内容は地域ごとに異なるのだそうです。東京都の場合は、精神科ERが3箇所あり、救急の場合はいったんそこで治療を受け、原則として翌日には、当番の精神科病院に転院するというルールになっているのだそうです。苦労してやりくりしている感じですね。
精神科への入院というと、大暴れしている患者を何人もで押さえつけて、すまきにして。。。みたいなイメージがありますが、まあそこまでひどいケースはまれだとしても、大概の場合、本人は判断能力を失っているわけですから、強制入院(非自発的入院)という形をとらざるを得ないことが多いようです。
しかし強制入院というのは、非常に厳しい措置ですから、その要否を判断するためには専門の資格が必要で、それをもってるのが「精神保健指定医」なのだそうです。「なんとか指定医」というのは、情報処理1級みたいな能力認定資格なのかと思いましたが、そうではないのですね。はじめて知りました。
精神病(うつ病などの軽いやつを含めて)の治療方法は、薬物療法中心という印象がありますが、実は薬の歴史は意外と短く、ここ20~30年で急速に発達したものです。
製薬業界にとっては、ビジネスモデルを一変させる「ドル箱」を手に入れたわけで、有名なキャッチコピー「うつは心のかぜです」みたいな大キャンペーンをうって、大量に売りさばいています。それが各国の健康保険財政をいっきょに悪化させたことは、最近になってようやく人口に膾炙するようになりました。
テレビドラマでは頻繁に「新薬が使えないので命が救えなかった」→「新薬をもっとばんばん使えるようにすべきだ」的な「お涙ちょうだいドラマ」が放映されていますが、あれにも製薬会社の陰謀を感じます。新薬の認可に時間がかかることが歯止めになって、日本の健康保険財政はなんとかこの程度で踏みとどまっているということを、マスコミはもうちょっとしっかり伝えるべきだと思います。
薬物以外の治療方法として、実は薬物よりも前からあるのが、電気ショックです。てんかん(けいれん)症のひとは、精神分裂病(現在は統合失調症といわれるものの一部)にならないという経験に着想を得て開発されたもので、要するに脳に電気を流すことで人工的にけいれん(電気流すとぶるぶるとなる、あれ)を起こして治療するというもの。作用メカニズムは不明だそうですが、とにかく効果があるので、1940年ごろから世界中に普及。しかし旧ソ連で反体制派に対する拷問の道具に使われたり、映画「カッコーの巣の上で」の影響などもあって、日本の精神科ドクターには使用に反対する人も多いのだそうです。現在の日本では、使用ルールが明確になっていて、要するに薬物療法が副作用などの問題から使えない場合や、緊急対応が必要な場合に限り使用可能なのだそうです。現在の電気けいれいん療法は、修正型といわれる、全身麻酔と筋弛緩剤を併用するもので、要するに、脳はけいれん状態になるものの、実際の筋肉は動かさないという方式になっているそうです。筋肉が動かないから、骨折とかケガのリスクがないということですね。
使えるようになっているそうです。
ちなみに、電気ショックで使う電気の波形は、従来はサインウエーブ(正弦波)だったそうですが、最近はパルス型(矩形波)なんだそうです。波形によって効果や副作用が変わるんですね。
コメント