業務仕分け(中編)

遅くなりましたが、続きです。
今回は肝心の「反論の技術」について。

「反論の技術」というとなんか特殊な技術のようですが、これって「議論の技術」
そのものなんですね。(香西秀信「反論の技術」明治図書1995)

人間に議論はつきもの。
ですから、技術の研究は大昔から行われてきました。

日本はどうか。
前にも書きましたが、日本の古典には議論シーンがたくさん登場します。
これはつまり、日本人も意外と議論好きで、議論技術への関心も高かったということだと思います。

その議論シーンを分析すると、日本人の議論形式が見えてきます。

どういうものか。
第一に、(前にも書きましたが)知識、特に過去の経緯をどれだけ知っているかが、議論の勝敗を分かつ大きな要素になっているということです。昔から日本人は前例には非常に弱かったようです。

第二に、論理的にではなく感情的に説得する方法を好むといこと。
つまり、いかにして感情的に納得してもうらかに議論の力点が置かれたわけです。
その結果、心的技術とでも呼ぶべきものが異常に発達した。
「阿吽の呼吸」とか「腹芸」とか「本音と建前」とかいわれるものが、それにあたります。
一方、一般的な言語技術、西洋でいうところのレトリックはあまり発達しなかった。
「ヴェニスの商人」のように論理で言い負かすというのは日本人にあまり好まれなかったわけです。

どうしてそうなったかというと、日本が土地の狭い島国ということに原因があると思います。
土地の広い国なら、論争した相手とは二度と顔を合わせないで暮らしていくことができる。
しかし、日本のように狭い国ではしょっちゅう顔を合わせざるを得ない。
相手を論理的にやりこめて感情的しこりを残すと、第一気まずいし、いつお返しされるかも分からない。そこで、勝敗をはっきりさぜず、うやむやのうちに実を取る方法、すなわち感情的説得が重用されたのだと思います。

ところが明治維新以降、日本人は困った問題に直面します。
日本の議論方法が通用しない相手、つまり西洋人と交渉=議論をしなければならなくなったからです。

西洋人相手でも心的技術はもちろん必要です。
しかし、メインはあくまで言語的技術です。

そこで日本も論理学などの技術の導入と普及を図ります。
しかし、積年の文化・風習を簡単に改めることはできない。
その結果、論理と感情が中途半端に入り混じった特殊な議論形態、すなわち「論理の皮をかぶった精神論」が横行するようになったわけです。
そういう議論を定着させる大きな力になったのは、陸軍士官学校や海軍兵学校で盛んに行われたディベート訓練でした。しかし、精神論を定着させる上で一番大きな役割を演じたのはマスコミだったと思います。

「論理の皮をかぶった精神論」の横行は、実は今も続いています。

前ふりが長くなってしまった。
この問題については別途論じることにして、肝心の「反論の技術」の話に移りたいと思います。


まずは、反論の一般的技術。

これについて次の3つが代表的です。これをマスターしておけば、技術的には大抵の場合対応可能だと思います。

①ことばの定義をつく
 相手の言葉の不明確さをつく、という方法ですね。
 これはどんな議論でも必ず使える便利な方法です(有効性はさておき)。
 まったく曖昧性のない完璧な言葉なんて、この世には存在せぬからですね。

 たとえばこんな感じで使います。
 ・レンホウ議員「スパコンは2番じゃ駄目なんですか?」
 ・反論「2番とか1番とかいうのは、どういう意味でしょうか? 
     よく分からんのでお答えのしようがありませんなあ」

 政治家の答弁では頻繁に使われるテクニックですね。  

 注意点は、あまり乱発してはいかんということ。
 なんでもかんでも定義を質していると、ただのアホと勘違いされたり、ソクラテスのようにみんなの恨みを買ってしまいますから。
 

②類似事例を引っ張り出す、もしくは比喩を使う

 これについては前回書きましたが、たとえばこんな感じです。
 ・レンホウ議員「スパコンは2番じゃ駄目なんですか?」
 ・反論「じゃあ浅田真央に銀メダルでいいでしょ、と言えるのですか?
     言えないのなら、その理由を考えてみてください。
     スパコンが2番じゃ駄目なのも同じ理由です。
     もし話が違うとおっしゃるのなら、どこが違うのか教えてください」
 

③比較の問題に持ち込む

 ・レンホウ議員「スパコンは2番じゃ駄目なんですか?」
 ・反論「業務仕分けの基準はコストに見合うリターンがあるか、
     ではないんでしょうか?
     ゴルフの試合で優勝した選手と2位に終わった選手で、
     才能や努力、つまりコストの面では差がほとんどありません。
     しかし賞金は倍以上違います。
     つまり2位を目指すというのは、あえてリターンの少ない道を選ぶ
     ということで業務仕分けの基準に反するのではないでしょうか?」

  という感じですかね。
 


さて、次は反論を加える対象についてです。
いくら技術があっても、トンチンカンなことに反論していては、有効な反論にならないわけです。何に反論するかをよく考える必要があります。

長くなったので、この問題については次回持ち越しといたします。


  

コメント

人気の投稿