エースの作り方

7、8年前のこと、「エース社員の育成について」というメールが届いた。
エース育成計画について打ち合わせするので、いついつ集まれ、というやや高踏的な指令だ。
差出人を見ると、切れ者とされる男である。

「エースって育成できんのかいな???」
エースと無縁の私はビッグ・クエスチョンマーク。

しかし、なにせ切れ者のいうこと。
「もしかすると、すげえ方法あんのかも」とワクワクしながらメールを読み進む。

ところがである。
読み終えてガッカリ。

計画の概要とやらはこんなだった。
いわく、若手の中から有望なのを選抜!
いわく、そいつにスペシャル教育を施す!
いわく、でもって、そいつにたくさんの部所を広く浅く経験させる!
いわく、経験積んだところで責任ある仕事につかせる!

早速、返信を書いた。
「これってエースじゃなくて、エリートだよね?」と。

切れ者氏には黙殺されたが、結局「エース養成計画」も沙汰やみとなった。

エースとエリート、なんか見た目は似ている。
いっしょと勘違いしている人もいる。

ところが、この二つはまったく違う。

テレビドラマでは「エースの活躍」を描いたものが結構ある。
ちなみに最近私が好きなのは「居眠り磐音」の坂崎磐音、少し前だと「医龍」の朝田龍太郎だ。

エースとはいったい何者か。
坂崎磐音や朝田龍太郎の属性から分析してみよう。

・圧倒的なスキルを有している
  剣術とか、手術技術とか、超一流の技量の持ち主である

・欲がない
  その気になれば出世も金儲けも思うままである。
  しかし、そういう欲はいっさいない。
  他人のために平気で命をかけるのである。

・己の確信にしたがう
  世間の常識とか、他人の考えには一切左右されない。
  つねに自分の確信にしたがって行動する。

・他人を責めない
  他人からいくら迷惑をかけられても、まったく気にしない。
  お前のせいで酷い目にあった! というようなケチなことは、
  一切いわない、考えだにしないのである。

・相手がだれであろうと、同じ態度である
  必要とあらば、自分より格下の者にも躊躇なく頭を下げる。
  逆に、相手がいかに偉かろうと、へりくだったりしないのである。

・無駄口を叩かない
  基本的に無口である。
  しかしダンマリというわけでもない。たまには冗談なども言う。


見るからにすごいね。
恥ずかしながら、自分とは大違いです。


エースが活躍すると、当然のこととして「超難問」が次々解決する。

しかしこの問題解決、よくみるとエースひとりの力によるものではない。

というか、エースは無鉄砲に走り回ったあげく、なんだかんだと窮地に追い込まれる。
そこを、周りの「なんの取り得もないふつうの人々」が助けて問題が解決するのである。
つまり問題解決は、エースではなくエースチームの総力によって達成されるのだ。

「ふつうの人間たちを巻き込む力」、そしてその前提として「なんの取り得もない人間を、いつの間にやらレベルアップさせる力」こそ、エースのエースたるゆえんなのである。

エースにふれた人間はどうなるか。
エースは、周りの人間のよい面だけを照らし出す。悪い面は相対的に引っ込んでしまう。
すると、ぱっとしない連中も、なんか自分がレベルアップしちゃった気になる。
それは最初ただの勘違いかもしれない。
しかしそれが続くうちに、本当にレベルアップするのだ。
レベルアップした連中は、「つまらぬ諍い」など起こさなくなり、友好的になる。
そうして、エースのチームは、難問の解決に一致協力して取り組めるようになるのである。

つまりエースが現れると、そのコミュニティーのパワーは急上昇するのだ。
だから、みながエースを待望する。

エリートはどうだろうか。
周りの人間をレベルアップさせる力はなさそうである。
というかむしろ、周りの人間のレベルアップ意欲を減退させるのではなかろうか。
「あいつはエリートだから」なんていう囁きは、「どうせ俺たち選ばれてねえしな、頑張るだけ損だぜ」という声と常にセットのように思われるからだ。

してみると、エリートが存在する組織の総合力は所属人員の総力を下回る、ということか。
なんかおかしいけど、なんか正しい気がしてしまう。
どうでしょうか?


コメント

水流 さんのコメント…
エリートな「だけ」の人間が存在する組織はそうなるかもしれませんね。
しかし、多くのエリート達はエース性もある程度併せ持ってると思います。

結果、組織の総合力は上がると思います。
そうでないと、エリート育成というシステムが成り立たないですし。

いかがでしょうか?
伝七 さんの投稿…
コメントありがとう。
いろいろ考えてみて下さい。

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