読書生活2008年12月号

16冊。

少し早いですが12月号です。
どうも一年間ご愛読ありがとございました。

200冊!を目標に頑張りましたが、あと一歩及ばす。
実質170冊ほどでした(まだ終わってないけど)。

来年も頑張ります。乞うご期待。


<おすすめ>

①岩井克人「ヴェニスの商人の資本論」ちくま学芸文庫1992
小泉・竹中両氏の経済政策は、リッチはもっとリッチに中流は貧民に、
という新自由主義=傾斜配分方式の導入にほかなりませんでした。
結果はご覧の通りのありさまです。
日本の若者は働き口が見つからず、
時代遅れのプロレタリア文学、蟹工船が馬鹿みたいに売れる。
子供を抱えた中産階級は日々の生活に四苦八苦。
いったいこの国はどうなるのか。
そこへもってきてサブプライム問題です。
新自由主義経済がついに世界規模で破綻したわけですね。
それでも「小泉政策の堅持」みたいなこといっとる某与党議員の見識には、
ほとほと呆れざるを得ません。
新自由主義経済は、新とはいえ、実はホップスやマルクスの古典経済学と
軌を一にするもの。そう岩井さんは言います。
それは「神の見えざる手」を盲目的に信頼する思想。
政府が余計なことをせずとも、市場は自然に適正な方向に向かう(はず)、
という考えです。
その問題点と結果を、なんとバブル絶頂前にすでにして指摘されていた。、
慧眼恐るべしと言わねばなりません。


②慧然「臨済録」訳:入谷義高 岩波文庫1989
無門関に比べると、かなり分かりやすいです。
特に「示衆」は、ちょっと臨済さんしゃべり過ぎじゃないの、
と突っ込み入れたくなるほどですね。


③松尾芭蕉「芭蕉 おくの細道」訳:荻原恭男 岩波文庫1979
本文もさることながら江戸時代の注釈書(すがごもしょう)に感動しました。
現代語の注釈なんて屁のつっぱりですよ(@石井慧)。
それを見ると、注釈書の著者は130部近い参考文献を参照しています。
論語でおなじみの四書五経、孫子でおなじみの武経七書などは言うに及ばず、
当時メジャーだったと思われる漢籍はすべて入っています。
ということは、芭蕉もそういうものは全部インプットしていたわけですね。
適当に書き連ねたようにも見える「おくの細道」ですが、その背景には当時としては最高レベルの教養が潜んでいたのですね。
考えてみれば当たり前ですが、芭蕉先生には感服いたしました。


④内田樹「態度が悪くてすみません」角川書店2006
内田ものです。とにかく面白いです。


<まあまあ>
①加藤諦三「自分に気づく心理学」PHP文庫2000
カミサンが昔よく読んだと言っておりました。
テクニカルな本というより、宗教書に近いです。

②E.M.フォスター「新訂・小説とは何か」訳:米田一彦 ダヴィッド社1969
「文章読本」系の本は、これで、いちおうメジャーどころを制覇?したつもり。
(あと本田勝一だけ読んでないけど。まあいいかと)
この本自体は、オックスフォード(ケンブリッジだったかな?)での講義録です。
そのためか、ちょっと理路のはっきりしないところがあるのと、イギリス文学を読み込んでいる人を対象とした話なので、浅学の身にはちょっときついところもありました。
とはいえ、特にキャラクターやプロットの章はたいへん参考になりました。

③孔子ほか「大学・中庸」訳:金谷治 岩波文庫1998
四書の最初が大学で、最後が中庸です。
どちらも元は五経のひとつ礼記の一部です。

④孔子「論語」訳:金谷治 岩波文庫1999
ざっくりとしか読んでなかったので、改めて購入。
正月にじっくり読みたいと思います。

⑤金原ひとみ「蛇にピアス」集英社文庫2006
たまたま娘の机に置いてあったので読んでみました。
芥川受賞作品。著者は当時20歳で、最年少受賞ということで話題になりました。
今年の秋には映画も公開されています。
ストリーのグロテスクさが話題の作品です。
確かにおじさんには少し気持ち悪いです。

人間誰しも「自己不満」の感情をもつ。
特に若いとき。
たとえば顔が悪いとか、頭が悪いとか、背が低いとかですね。
だから、自分ではない者に変身したい。
しかしそんなことはできない。
そこで一般人は、適当なところで折り合いをつけ、
まあ俺でもいいかと自己満足するわけです。
都合の悪いことは「俺を認めないのは上司が馬鹿だから!」みたいな感じで他人のせいにしながらですね。それで精神のバランスを取る。
ところがそういう適当な折り合いができない者も世の中にはいる。
自己肯定一辺倒で、「むかついたから殺しました」の世界にいく者。
自己嫌悪、そして鬱病にいっちゃう人たちです。
この作品の登場人物、つまりは著者は、
自分の肉体を傷つけるという形で変身を実現ようとする。
舌にピアス。背中に刺青です。
変身するために痛いの我慢です。
しかしその一方でありきたりな同棲生活を送る。
知らず知らずのうち、愛情みたいなものも芽生えている。
そういう変わりたいけど、何やっても変われない。
ふと、ふつうに戻りたいとも思う。
てなことを、空疎感漂う文章で書いているのです。
この作品の感想で、サブカルの描写がどうのこうのというをよく見ますが、
それはガジェット(舞台道具)に過ぎないと思います。
これは人間とは何かを描いた、紛れもない純文学。
しかも恐らく私小説ですね。


以降、これから読むところです。

⑥藤原正彦「若き数学者のアメリカ」新潮文庫1981
⑦ショウペンハウエル「自殺について」岩波文庫1979
⑧コリン・ウイルソン「アウトサイダー」集英社文庫1988
⑨守屋洋「六韜・三略の兵法」プレジデント社1994
⑩林富士馬「六韜」中公文庫」2005
⑪マックス・ヴェーバー「職業としての政治」岩波文庫1980
⑫吉田光由「塵劫記」岩波文庫1977

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