西研「ルソー『エミール』(NHK100分de名著テキスト)」2016年6月号
有名な本を1回25分x4回で解説するという教育テレビの番組のテキストです。
チャンネル変えてるときにたまたま見て、面白かったのでテキスト買ってみました。
Jean-Jacques Rousseau(ルソー)という人は、子供のときに親父に蒸発されてしまい、お母さんもすでに亡くなっていたため、孤児同然になってしまいます。その後、時計職人の家に奉公に出されますが、その親方がやたら殴るため辛抱たまらず出奔。教会の施しを受けたりしながら各地を放浪したのち、貴族の未亡人に拾われます。
少年時代から読書好きだったルソーは、彼女の邸宅にあった図書室で、古典から近代哲学書まで読みふけります。
ルソーは、一度も学校教育は受けていませんが、こうした独学で音楽までマスター。あの「むすんでひらいて」もルソーの作品と言われています。
その後、彼女の家を出てパリに移り住みます。
科学アカデミーなどで論文を発表しますが、アカデミズムでは、なかなか芽が出ません。
楽譜の書写とか、女性にはもてたので「ひも」で食いつないでいました。
そのころ下宿で給仕や洗濯の手伝いをしていた女性と恋仲になり、最終的には結婚しますが、彼女の間に生まれた5人の子供は非情にも次々と孤児院に入れてしまいます。
後年それを論敵の「ヴォルテール」にばらされ窮地に陥ります。
ようやく論文は一等賞をとってアカデミズムで認められたのは38歳のとき。
代表作「エミール」と「社会契約論」を上梓したのは49歳という遅咲きの人です。
「エミール」の教育論。
<第1編から第二編>0歳から12歳。
◆他者に褒められるために右往左往するような人間にしない
◆人間の本性ふたつ。自己愛と「あわれみ」(pitié)=共感能力。
◆不確実な未来のために現在を犠牲にする残酷な教育はよくない。未来を予見する「先見の明」と「想像力」は私たちの欲望を期待によってどんどんと膨らませる。
◆わたしたちの欲望と能力との間の不均衡のうちにこそ、わたしたちの不幸がある。その能力が欲望とひとしい状態にある者は完全に幸福といえるだろう。
◆教育全体のもっとも重大な、もっとも有益な規則は時をかせぐことではなく、時を失うことだ
◆初期の教育はだから純粋に消極的でなければならない。
<第3編>~15歳。
◆わたしたちの感覚を観念に転化しよう。しかし、感覚的な対象からいっぺんに知的な対象に跳び移るようなことはしない。世界の他にはどんな書物も、事実の他にはどんな授業も与えてはならない。読む子は考えない。読むだけだ。
◆真理の連鎖ではなく「好奇心」からなる連鎖によって学ばせるべきだ。
◆「それはなんの役にたつのですか」。これが今後、神聖なことばとなる。
◆偏見に打ち勝ち、事物のほんとうの関連性にもとづいて判断を整理するもっとも確実な方法は、孤立した人間の地位に自分をおいて考えてみること。
<第4編>~20歳。
◆自己愛(amour de soi)という根本的な情念(passion)が悪い方向に変化していくと「自尊心(amoure propre)」になる。
◆自己愛は自分のことだけを問題にするから自分の本当の必要が満たされたら満足する。しかし自尊心は、自分をほかのものに比べてみるから、満足することは決してない、するはずもない」
◆人間を本質的に善良にするのは多くの欲望をもたないこと、そして自分をあまり他人に比べてみないことだ」
◆人間を社会的にするのはかれの弱さだ。弱さから私たちの「はかない幸福」(frêle bonheur)が生まれる。
◆人間の心は自分よりも幸福な人の地位に自分をおいて考えることはできない。自分よりもあわれな人の地位に自分をおいて考えることができるだけである。
<第5編>~22歳。
◆自分が欲していることにはどんなことにでも抵抗できない者は、結局、どんな恐ろしい罪におちいることか。欲望を最高の掟にするのではなくて、自分の良心が最高の掟にならなくてはならない。
◆欲望に支配されず、義務・美徳をめがけて生きることこそ自由と幸福がある。
コメント