伊藤真「”司法試験流”勉強のセオリー」NHK出版新書2012
著者は、東大法学部在学中に自信満々で司法試験にのぞんだものの、あっさり落ちてしまい、それをきっかけに勉強方法を再考。合格後はそのノウハウを教える受験塾を開いたという方です。社会人の勉強方法一般に通じる内容でたいへん勉強になりました。
◆いくら量を覚えても司法試験には合格しない
この著書も最初に司法試験を受けたときは、やたらめったら量を覚えるという勉強方法だったそうです。ところがそれでも短答式試験にすら受からなかった。
最初は 「まだ覚えたりないのか。いったいどこまで覚えたらいいのか」と悩んだのだそうです。ところが冷静になって考えてみると、 司法試験のように出題範囲がやたら広い試験では、すべてのことを覚えきるということが、そもそも不可能だということに気づいたのだそうです。
◆知識を増やしたほうが賢くなった気がしやすい
勉強とは、知識を増やすこと、と単純に考えがちです。
たしかに何をするにしても知識は必要で、勉強の基本は知識習得だと思います。
しかし、勉強の目的が、たとえば「思考力を強化する」というような抽象的で高度なものであれば、そのやり方ではまったくだめです。
たとえばセミナー会社がよくやってる 「やたらめったらフレームワークを教えこむ」式のに行った若手が、その後、すんげー成長した賢くなったという話は聞いたことがない。その手の研修は実際のところほとんど役に立たないということは、みんな口に出さんだけで、心の中では気づいている。他にいい方法も見つからないから、とりあえずやってるというのが実状です。
ところが、その手の「知識伝達型」研修というのは、受講者には結構評判が良かったりします。なぜか。要するに、 人間の悲しい性ですな。
著者いわく、「知識を増やすという行為は、何か賢くなった気になる。全然知らないことを少しだけ(表面的にでも)知ったほうが、勉強としては楽しい」。
まったくその通りだと思います。
◆知らない問題にも対応できる勉強法
司法試験だけでなく、社会人一般に求められる勉強方法といのは、知ってる問題だけ解けるという力を付けるものではなく、知らない問題に遭遇したときにも対処できる能力を得るためのものですね。
そのために著者が指摘していることは、おそらく次の三点だと思います。
①用語の概念をきっちりおさえる
言い換えると、言葉の定義をしっかり覚えるということですかね。まったく賛成です。
②ものごとの構造をおさえる
たとえば法律の基本構造というのは憲法でも道路交通法でも同じなのだそうです。
われわれITの世界でも、プロトコルなんてのはX.25でもTCP/IPでも基本は同じなわけで、古い知識しかなくても、インプリの際に何が問題になりそうかてのは想像がつくわけです。
③概念の関係性をおさえる
よく応用力という言葉を使いますが、そのベースになるのが関係性の把握能力だと思います。
進歩の遅い若手てのは、だいたいこれが弱いですね。
関係性というのは、一律的ではなく多義的です。それは、ひとつの星がいくつもの星座に所属しているような感じ。要はTPOに合わせて関係性は変わるということです。次回の社内教育でテーマにしたいと思っているところです。
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